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広島家庭裁判所 昭和45年(家イ)642号 審判

国籍 朝鮮 住所 広島市

申立人 季蘭菊(仮名)

国籍 朝鮮 住所 広島県

相手方 崔日華(仮名)

主文

申立人と相手方との間に親子関係が存在することを確認する。

理由

申立人は主文同旨の家事審判法第二三条に基づく申立をなし、その実情の要旨として、申立人は朝鮮における戸籍に父季占文、母慎文子間の嫡出子の如く記載されているが、これは事実に反する記載である。事実は、季占文と慎文子は戦前から日本内地において夫婦生活をしていたが、昭和一〇年ごろ事実上離婚して慎文子は朝鮮に帰国し、その後崔日華が朝鮮から日本内地に渡つて季占文と事実上の夫婦となり、広島県○○郡○○町○○において生活していたのであつて、西紀一九三六年(昭和一一年)一一月七日その間に申立人をもうけたものである。従つて申立人と相手方との間に親子関係が存在するからその旨の確認を求めるのであるが、上述の如く、申立人は日本で出生し、相手方は昭和一〇年以来日本に永住しているから日本の裁判所に本件申立をなしたとのべている。

よつて当裁判所は、昭和四五年九月七日午後三時調停委員会を開いたところ、当事者間に主文同旨の合意が成立し、かつ原因事実についても争がない旨のべた。そこで、当裁判所は必要なる事実を調査した結果、申立人主張の各事実はこれを首肯することができるものであり、且つ申立人は外国人登録証明書によると氏名「季陽春」、生年月日は西紀一九三六年一一月七日となつており、本国戸籍謄本によると氏名「季蘭菊」生年月日は西紀一九三六年一二月七日となつているが、これは同一人物であり、生年月日は外国人登録証明書の方が正しいものと認めることができる。しかして当事者双方は、国籍が朝鮮であるが、これは昭和二二年当時外国人登録令が施行された際、在日朝鮮人はすべて国籍を朝鮮として表示したものであつて、その後申請によつて韓国代表部の証する書面に基づいて、国籍を韓国と書き改める手続をすることができる取扱いであつたところ、本件当事者双方は最近になつて右の手続をすることができる事実を知つて、現在その手続中である旨のべた、したがつて当事者は大韓民国に国籍を有するものとして認定できる。しかして申立人は日本で出生し以来日本に居住し、相手方は昭和一〇年以来日本に居住するものであり、わが国の裁判所が裁判管轄権を有することは明らかである。そこで本件の準拠法についてみるに、申立人は相手方と母子関係が存在することの確認を求めるものであつて、かかる場合法例に直接の規定はないけれども、認知に関する法例第一八条第一項の趣旨を類推して適用するのが相当と考える。したがつて本件の準拠法は大韓民国民法によるべきところ、同法第八六五条第八六三条によれば、右の場合には、同法第八六五条にいう「他の事由を原因」とする場合にあたり、同条に定める親生子(実親子をいう)関係存否確認の訴を提起しまたは、同国の家事審判法第二条乙類二の親生子関係存否確認の審判の申立をすることが許される。

しかして、本件はわが国の裁判所に申立をしたものである以上その母子関係存否確認の手続については、わが国の法律によるべきものである。

よつて当裁判所は本件申立を認容するを相当とすべく家事審判法第二三条に則り主文のとおり審判する。

(家事審判官 藤井章)

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